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福岡高等裁判所 昭和26年(ナ)15号 判決

原告 古庄正雄

被告 長崎県選挙管理委員会

被告補助参加人 松本猛馬

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「昭和二十六年四月二十三日執行の佐世保市議会議員選挙につき被告委員会が同年七月二十三日なした裁決はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十六年四月二十三日執行せられた佐世保市議会議員選挙に立候補し開票の結果同市選挙会は原告の得票数を七百七十七票として最下位の当選人とし、補助参加人松本猛馬の得票数を七百七十四票として次点者と決定した。

然るに右松本猛馬は同年四月二十七日右当選の効力に関し同市選挙管理委員会に対して異議の申立をなしたところ、同委員会は「(一)無効投票中「コツトタケコ」と記載した一票は松本猛馬の有効票と認める。(二)候補者松本卯助の有効投票中の三票は松本猛馬の有効票と認める。(三)松本猛馬の有効投票中「松尾タケマ」「松尾猛馬」の二票及び外一票計三票は無効とする。よつて松本猛馬の得票は差引一票増加せられて七百七十五票となるが、原告の得票には異動がなく七百七十七票であるから結局異議の申立は理由がない。」として異議申立を棄却した。よつて右松本猛馬は更に被告委員会に対し訴願を提起したところ被告委員会は、同年七月二十三日「松本猛馬の無効投票中「木本猛馬」と記載した一票及び市選挙管理委員会が無効と決定した「松尾タケマ」「松尾猛馬」の二票以上計三票は松本猛馬の有効投票と認める。よつて同人の得票数は七百七十八票となり、原告の得票より一票多いこととなる。」との理由の下に原告の当選を無効とする旨の裁決をなし、同年七月二十六日右裁決を告示した。

然しながら市選挙管理委員会並びに被告委員会に於て有効とした右「コツトタケコ」の一票及び被告委員会に於て有効と認めた右三票計四票は左記(一)乃至(三)の理由によつていずれも無効であると解する。

(一)  「木本猛馬」と記載した投票について、

被告委員会は右投票の「木」の記載は「松」の字を略書、速書したものであるというけれども、右投票の記載文字は相当達筆であつて「松」の字のつくりの「公」を書忘れたものとは認められず、右投票者は何事か他に考えがあつて殊更につくりを脱落させたものと解するのが妥当であり、従つて右投票は候補者の何人を記載したかを確認し難いものとして無効である。

(二)  「松尾タケマ」「松尾猛馬」と記載した二票について、

右二票は選挙会に於て松本猛馬の有効票として計算されているが、当時の開票管理者について開票時に於ける投票の判定状況を糺したところ、開票管理者は立会人と検討した結果本件選挙の候補者中に「松尾」なる氏の者が存するから右二票は何人を投票したかを確認し難い無効投票と判定したのであるが、有効票と無効票との整理区別をなす際係員が誤つてこれを有効票中に入れたため、選挙会に於て有効票として計算されたものであることが判明した。而して市選挙管理委員会に於ても、開票管理者の意見と同じく前示二票を無効と決定したのに拘らず、被告委員会は右二票の「松尾」は「松本」の誤記であるとして松本猛馬の有効票と認定した。然し本件選挙に於ては「松尾」なる氏の候補者が他に存するのであるから「松尾」を「松本」の誤記であると簡単に認めるのは穏当でない。

むしろ右二票は異なる二候補者の氏と名とを混記したものと見るのが妥当であるから、候補者の何人を記載したかを確認し難い投票として無効とすべきである。

(三)  「コツトタケコ」と記載した投票について、

右投票は投票用紙表面所定欄は全然白紙であつて文字の記載がなく裏面の一端になぐり書きしたもので適法な投票ではない。加之「マ」の字が「コ」の字となつている点及び「マツモト」の「モ」の一字が脱落している点等からして真面目な投票とは認められない。

結局候補者の何人を記載したかを確認し難いから無効である。

よつて原告の得票は松本猛馬の得票より多数であつて、原告の当選は有効であり、被告委員会の裁決は失当であるからこれが取消を求めるため本訴に及んだと供述した。(立証省略)

被告委員会は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中本件選挙の執行より本訴提起に至るまでの一連の経過的事実はこれを認めるが、原告主張の四票の投票が無効であるとの原告の主張はこれを争う。右四票は左記(一)乃至(三)の理由によつていずれも松本猛馬の有効投票と認むべきである。

(一)  「木本猛馬」の投票について、

右投票の記載は原告が主張するように達筆であつて、達筆であればこそ略書、速書すればかような字形となり得るのであつて、これを無効投票とすることは選挙人の意思を全く無視するものといわなければならない。当然有効とすべきである。

(二)  「松尾タケマ」「松尾猛馬」の二票について、

右二票中「松尾タケマ」の投票の最後の「マ」なる記載は「マ」と判読し得るのであつて、右二票はいずれもその名の記載が松本猛馬の名と明確に一致しており、ただ「松本」なる氏が「松尾」と誤記されているのに過ぎず、四字中三字まで松本猛馬の氏名が記載されており且本件選挙の候補者中に「タケマ」又は「猛馬」に類似する名の者は存しないのであるから、係争の二票は松本猛馬の有効投票と認めるのが選挙人の意思を合理的に判断する所以であると思料する。

(三)  「コツトタケコ」の投票について、

右投票の記載文字は極めて幼稚拙劣であり、恐らくは無学の選挙人が特定の候補者に投票する意図の下に速成の習字によつて収得した文字を投票用紙に記載したものと解せられる。而して「マ」の字と「コ」の字は字形が近似し無学の者が両者を書き誤ることは有り勝のことであるから、右投票の記載の「コ」は「マ」の字の誤記と認めるのが相当であり、松本猛馬の有効投票と認めるのが最も自然で且合理的な判断であると思料する。

以上の如く右係争の四票はいずれも松本猛馬の有効投票であつて、原裁決の通り同人の得票は原告の得票より一票多いこととなり、原告の当選は無効であることが明白であるから、原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

本件選挙の執行より本訴提起に至るまでの一連の経過的事実については当事者間に争のないところである。よつて係争の投票四票の効力について順次判断することとする。

(一)  「木本猛馬」の票について、

右投票の記載中「木」の字が松本猛馬の氏名中の「松」の字と異なる外、他の三字が一致していることは当事者間に争がなく、右係争の投票であることに争のない甲第五号証の三によれば右投票の記載は達筆であると同時に速書したものであることが明かであり、右「木」の記載はその字形及び筆勢等から見て「松」の字を草書体を以て速筆したものと認めるのが相当であつて、故意に「松」の字のつくりを脱落せしめたものとは解し難い。右投票は松本猛馬の有効票とすべきである。

(二)  「松尾タケマ」及び「松尾猛馬」の二票について、

先づ「松尾タケマ」と記載した投票であることに争のない甲第五号証の二を検すると、右記載の最後の「マ」は「マ」の字と判読するのが相当である。而して本件選挙に於て「松尾」なる氏の候補者があつたことは当事者間に争がないけれども、右二票の「タケマ」及び「猛馬」なる記載は松本猛馬の名と明確に一致しており且右選挙に於て「タケマ」又は「猛馬」なる名の候補者がいなかつたことは成立に争のない甲第三号証により明かであるから、右投票の記載は「松尾」なる候補者の氏と松本猛馬の名とを混記したものと解するよりもむしろ松本猛馬の氏の「松本」と記載すべきを「松尾」と誤記したものと認めるのが妥当である。従つて右二票は松本猛馬の有効票と解すべきである。

(三)  「コツトタケコ」の票について、

先ず右係争の投票であることに争のない甲第五号証の四によれば、右投票の記載の最初の仮名文字は「コ」と読むよりはむしろ「マ」と判読するのが相当であるから、右投票は「マツトタケコ」と記載したものと見るべきである。

而して同号証によつて明かであるその記載文字の極めて幼稚拙劣である点並びに「マ」と「コ」の字は字形が近似している点等よりして右投票は文字を十分に書き得ない者が「マツモトタケマ」と記載するつもりで最後の「マ」を「コ」と誤記し且「モ」の一字を脱落したものと認めるのが相当である。なお原告は右投票の記載は投票用紙の裏面の一端になされているから無効であると主張するけれども、投票の記載が投票用紙の所定欄以外の違式の場所になされていても、これによつて投票を無効とすべきではないと解するから、右主張は理由がない。よつて右係争の投票は松本猛馬の有効票と認定する。

以上説明の如く係争の四票はいずれも松本猛馬の有効投票と判定するのが相当であるから、結局同人の得票数は七百七十八票となり原告の得票数七百七十七票より一票多いこととなり、原告の当選はこれを無効とする外はない。

よつて被告委員会の裁決は相当であるから、これが取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小野謙次郎 桑原国朝 中園原一)

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